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名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)479号 判決 1989年8月23日

原告

東海製薬株式会社

原告(乙事件原告)

篠邉一郎

被告

小島孝

ほか一名

乙事件被告

小川孝幸

主文

一  被告小島孝は、原告東海製薬株式会社に対し、金一一二万九二八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告小島孝及び被告小川孝幸は、原告篠邉一郎に対し、各自金五九万九一八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件につき、原告らに生じた費用の二分の一と被告小島孝に生じた費用を同被告の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告小川登に生じた費用を原告らの負担とし、乙事件につき生じた費用は被告小川孝幸の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告小島孝及び同小川登は、原告東海製薬株式会社に対し、各自金一一二万九二八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告篠邉一郎に対し、各自金五九万九一八〇円及びこれに対する昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六二年一二月一七日午前五時二六分ころ

(二) 場所 名古屋市中村区畑江通八丁目一番地先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(名古屋七七め八五五八、以下「加害車」という。)

右運転者 被告小島孝(以下「被告小島」という。)

(四) 被害車 普通乗用自動車(名古屋七八や九一二五、以下「被害車」という。)

右運転者 原告篠邉一郎(以下「原告篠邉」という。)

(五) 態様 被害車が前記場所で赤信号のため停車していたところ、被害車と同一方向に進行して来た加害車が、居眠り運転のため、制動措置をとることなく停車中の被害車に追突した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告小島の責任

被告小島は、自動車運転者として、運転中は前方を注視すべき義務があるのにこれを怠り、信号待ちで停車をしていた被害車に対し、居眠り運転により制動措置をとることなく進行速度(時速約五〇キロメートル)のまま追突したものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

(二) 被告小川孝幸(以下「被告孝幸」という。)

被告孝幸は、加害車の所有者であるから、自賠法三条により、原告篠邉の人的損害につき賠償責任を負う。

(三) 被告小川登(以下「被告登」という。)

被告登は、土木建設請負を業とする小川工務店(以下「小川工務店」という。)を経営し、被告小島を雇用していた者であるが、被告小島が被告登の事業の執行につき加害車を運転したところ、居眠り運転により本件事故が発生したものであるから、被告登は、民法七一五条により損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 原告東海製薬株式会社(以下「原告会社」という。)は、本件事故によりその所有の被害車を損壊された。また、原告篠邉は、本件事故により昭和六二年一二月一七日から同月二九日までの間に実通院日数七日間の加療を要した頸部捻挫の傷害を受けた。

(二) 原告会社の損害 一一二万九二八〇円

1 修理代金 七三万五八八〇円

2 代車費用 七万三四〇〇円

3 格落損 二二万円

4  弁護士費用 一〇万円

(三) 原告篠邉の損害五九万九一八〇円

1 治療費 四万五九〇〇円

2 通院交通費 三二八〇円

3 慰謝料 五〇万円

4 弁護士費用 五万円

4 よつて、原告会社は、被告小島及び同登に対し、各自一一二万九二八〇円及びこれに対する本件事故の発生の日である昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告篠邉は、被告らに対し、各自五九万九一八〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告小島

請求原因事実はすべて認める。

2  被告孝幸

請求原因1及び2(二)の事実は認め、同3(一)(三)の事実は否認する。

3  被告登

(一) 請求原因1の事実は知らない。

(二) 同2(三)の事実のうち、被告登が土木建設工事請負を業とする小川工務店を経営していたことは認め、被告小島の居眠り運転により本件事故が発生したことは知らない。その余は否認する。

被告小島は、小川工務店の仕事の応援に来ることはあるが、それは被告小島の自由意思に任せていたにすぎず、報酬も外注支払いとして日給を支払つていたにすぎないから、被告小島は、被告登の被用者にあたらない。

仮に、被告小島が、被告登の被用者にあたるとしても、<1>本件事故は、昭和六二年一二月一六日に行われた忘年会の三次会から帰る途中の事故であり、三次会の会場から小川工務店に直行する途上の事故ではないこと、<2>この忘年会は、被告登の経営する小川工務店と取引のある訴外市川設計事務所が主催する業者仲間の忘年会であつたこと、<3>忘年会の二次会・三次会は、忘年会に出席した者の一部が任意に参加したものであること、<4>小川工務店の仕事を手伝う際の被告小島の職務は、現場での片付け、ゴミの集配などの雑役であり、人を自動車に乗せて運ぶというものではないことからすれば、本件事故は、被告登の「事業の執行に付き」発生したものではない。

(三) 同3の事実は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  被告小島について

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

よつて、被告小島は、原告会社に対し、損害賠償債務として一一二万九二八〇円及び事故発生の日である昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、原告篠邉に対し、損害賠償債務として五九万九一八〇円及び右同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

二  被告孝幸について

1  請求原因1(事故の発生)及び2(二)(責任原因)の事実は、当事者間に争いがない。

2  原告篠邉の損害

(一)  治療費 四万五九〇〇円

原告篠邉本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、第六号証の一ないし七及び同尋問の結果を総合すると、原告篠邉は、本件事故の日である昭和六二年一二月一七日から同月二九日までの間、通院実日数七日にわたつて本件事故による頸部捻挫の傷害の治療を受け、治療費として四万五九〇〇円を支出した事実が認められる。

(二)  通院交通費 三二八〇円

原告篠邉本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし四、同尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、通院交通費として三二八〇円を支出した事実が認められる。

(三)  慰謝料 五〇万円

原告篠邉本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、<1>同原告は、本件事故の四日後になり、首が全く動かなくなりこのまま治癒しないのではないかとの不安感・恐怖感に襲われたこと、<2>同原告は、原告会社の代表取締役であり、容易に職場を離れることのできない立場にあつたことから、本件事故後一日も休まずに通勤したこと、<3>頸部捻挫が完全に治癒したのは昭和六三年三月中旬ころであり、その間は客との折衝や出張等を控えざるを得ず、特に忙しい年末年始に全く稼働できなかつたこと、<4>昭和六二年一二月二九日以降通院をしなくなつたのは、同日二週間分の投薬を受け薬事治療に専念していたところ、本件事故後一か月程して痛みが和らいできたからであること、<5>原告篠邉自身の休業損害の請求も考えられるところ、同人が原告会社の代表取締役であること等も考え併せ、かかる請求を差し控えたこと、の各事実が認められる。

右認定事実に照らし、原告篠邉の傷害慰謝料としては、五〇万円が相当と認める。

(四)  弁護士費用 五万円

以上の認容金額、被告の抗争の程度、審理経過その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は、五万円が相当と認める。

(五)  合計額 五九万九一八〇円

よつて、被告孝幸は、原告篠邉に対し、損害賠償債務として五九万九一八〇円及び事故発生の日である昭和六二年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

三  被告登について

1  事故の発生

成立に争いのない甲第一号証の一及び被告小島本人尋問の結果によれば、請求原因1の事実が認められる。

2  被告登の責任

(一)  被告登が、本木建設工事請負を業とする小川工務店を経営していることは当事者間に争いがない。

(二)  本件事故が、被告小島の居眠り運転により発生したことは、成立に争いのない甲第一号証の一及び被告小島本人尋問の結果により認められる。

(三)  そこで、本件事故が、被告登の「事業の執行に付き」発生したものか否かにつき検討する。

被告小島、同孝幸、同登の各本人尋問の結果によれば、<1>各被告は、昭和六二年一二月一六日に行われた忘年会に参加したこと、<2>この忘年会は、小川工務店と取引のある市川設計事務所の訴外山下が中心となつて企画したもので同設計事務所とつながりのある業者仲間の集まりであつたこと、<3>当初は、忘年会散会後忘年会会場に宿泊する予定であつたが、右山下と被告登の発案で急遽二次会へ行くことになつたこと、<4>被告登らと共に二次会に参加したのは、被告らと山下及び市川設計事務所の他の従業員一名であつたが、これは忘年会に参加した一部の者にすぎず、他にも二次会へ行くグループが存したこと、<5>忘年会会場から二次会会場までは被告孝幸が加害車を運転しており、二次会会場を出て以降被告小島が運転することになつたのは偶発的であつたこと、<6>三次会が終了したのは、翌一七日の午前四時三〇分ころであり、被告小島を除く他の参加者は泥酔状態であり、被告登が被告小島に対し、仕事へ行くため三次会会場から小川工務店に直行するよう命じた事実もないこと、<7>被告孝幸及び同登は、三次会会場近くで、加害車の中で仮眠するつもりであつたこと、の各事実が認められ、被告小島の供述中右認定に反する部分は、たやすく信用することができない。

右認定事実によれば、本件事故の端緒となつた忘年会は、市川設計事務所が主催したその業者仲間の集まりであつて、小川工務店従業員の慰安を目的とする独自の催しではなく、二次会・三次会は急遽組まれた私的かつ任意のものであり、しかも、被告小島が加害車を運転することになつたのは偶発的な事情によるものであるうえ、被告登が被告小島に三次会会場から仕事のため小川工務店へ直行することを命じたものでもないから、本件事故は、被告登の事業と無関係に発生したものというべきであり、本件事故が被告登の「事業の執行に付き」発生したものとは認められない。

よつて、その余の点を判断するまでもなく、被告登は、民法七一五条の使用者責任を負わない。

四  結論

以上の次第で、原告会社の被告小島に対する本訴請求及び原告篠邉の被告小島及び同孝幸に対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告らの被告登に対する請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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